あなたもまた狙われていますよ(No.9)
 
木村 秀美 (日本人会)
冬は雲が低くたれこめ、とても暗く、しかも寒いと言う記憶しか私には残っていない英国の「ロンドン」で、アジアの国の片田舎から出張した私共二人(もう一人はマレー系マレーシア人)が、もう少しで実に巧妙に準備された客引きに引っかかり,大金を巻き上げられそうになった事件のレポートです。
 
人間を身なりや言葉使いで判断して信用してはいけません。
 
私達はスコットランドへ商用で行く途中で中継地ロンドンに一泊しました。その日は日曜日でした(大部分の会社人間は海外出張する時は日本や勤務地を日曜日に出発して,出張先で月曜日から仕事を始めるのが普通)。シンガポールからロンドンに朝着いて、マレー人の同僚を(勿論彼にとってヨーロッパは始めての経験でした)街に連れ出し,同じ日であれば何回乗っても料金は同じと言う経済的な2階建て観光バスを利用して市内観光をしました。 夜はピカデリーサーカスのナイトスポットで随分昔からある有名な美女たちのショウ (当地では絶対に見られない)を彼に見せてやろうと思い夕食後その劇場に向かいました。 日曜日の夜のためか街には余り人通りも多くなく、私達は目指す劇場には予想よりも大分早く着きました。それでも途中では通りの左右から田舎から出て来たカモを捕まえようとして数多くの客引きが執拗に声を掛けてきましたが、私どもの行き先は最初から決めていたので彼等を相手にしませんでした。処がその劇場の前に来てみると人がいないのです。最初は開演時間にまだ大分時間があったので我々は早過ぎるのだと判断してその付近をウロウロして時間を潰して,再度劇場に戻ってくると、真っ黒のフロックコートに身を包み山高帽を手にした背の高い立派な紳士が劇場の前に立っていました。
 
この紳士は私どもに近寄って来て『Good evening, Gentlemenこんばんは。本日はようこそ当館にお越しいただきまして誠に有難うございます。あいにく本日のショウは都合で劇場が変わりました。直ぐ近くですから私がそこへご案内させていただきます。ダンサーもショウの内容もまったく同じです』と言うではありませんか。私は1時間近くも暇つぶしをしてここへ戻って来たのだから『エエッ、それはないでしよう』と思いながら,念の為(このあたりは私の本能)普通は劇場の入り口にある『お知らせ』の掲示がないかを探したのです。でもその種類の案内はどこにも見付かりませんでした。一方私の同僚はマレーシアと比べて物価がべらぼうに高いのを昼間の市内見物で既に経験していたので、かの紳士に対して『ところで入場料はいくらですか?』と聞くのですがどうしたことか的確な返事が返ってきません。この時彼の自衛本能が働いたのです。
 
『木村さん、入場料を言わないのは変ですよ。これはちょっとやばいかも知れません。止めときましようよ』とのことになり,私も同意してかの英国紳士には『一寸都合が悪くなった』と言って,後ろ髪を引かれる思いで宿泊しているホテルへ戻りました。翌日スコットランドのエジンバラで嘗てロンドンに駐在していた日本から出張して来た同僚にこの話をしたら『木村さん、それは正しい判断でした』と誉められました。彼が駐在していた4年間でこの劇場の前で劇場のスタッフと名乗る紳士に他の場所へ連れていかれて,べらぼうな料金を取られたケースが数多くあったとのことです。日本で言う「キャッチ・バー」と同じ類だそうです。後でホテルでゆっくりと現地の案内書を見るとこの劇場は日曜日は休館となっていました。ずっと昔私は日本から出張してきて英国人に連れられてこの劇場に入って目にした華麗なショウに強烈な印象を受けたのですが、一般の旅行者の一人である私はこの劇場が日曜日休館というのは知るよしもありませんでした(地元の人にとってそのことは常識だったのです)。
 
教 訓
            日本の常識は必ずしも世界の常識ではありません。少しでも危ない
         かなと感じたら一切躊躇しないで即刻身を引くことです。
 
(お知らせ)
             次回は治安が悪いフイリッピンで、安料金で行くと言った『流しのタクシー』に乗らなかったおかげで大切な命が助かったお話しです。どうぞご期待下さい。