あなたもまた狙われていますよ(No.11)
 
木村 秀美
ここしばらく恐ろしい経験のレポートの連続でしたが、今回はちょっと趣向を変えて のんびりとしたフィリッピンの片田舎での出来事です。でも、小型の乗用車の後部座席に 乗って狭い道を驀進していて、突然小牛と衝突した時は一瞬ヒヤーッとして目をつむり ました。
 
この事故はフィリッピンの南部にあるセブ島から飛行機で約45分のところにあるボホールと言う小さい島で発生しました。
 
フィリッピンには無人島を含めると数千にのぼる島があり、ボホール島は島全体が石灰石で出来ています。島のあちこちには石灰石が長年の風化で土の部分だけが地上に残って、ガラス瓶を立てて並べたような奇観が見られます。これを彼らはチョコレート・ヒルと呼んでいます。ちょうど手に持っていたチョコレートが暑さで溶けて地面に落ちたような形状でチョコレート色をしています。
 
さて、私は日本からのVIP2名をマニラから当時ボホールで操業開始したK製鉄のボホール石灰石工場の見学に案内しました。この島へは一部の日本人にも知られている観光地セブ島から一日に1便だけフィリッピン航空(PAL)の定期便の飛行機が飛んでいました。VIPの時間の都合で定期便は利用できないので、私は民間の飛行機会社のセスナをチャーターしました。私どもがこの飛行場に着陸しようとして先ず驚きました。着陸直前の滑走路をゆうゆうと横切る3−4人の人影を見ました。それはこのマレーシアで走っている自動車の直前に割り込んでくる全く怖さを知らない運転手とよく似た風景です。
 
処で余談ですが、フィリッピン航空は略語でPAL(Philippines Air Lines)と言いますが、この会社の飛行機はいつも遅れるので、巷ではPALをPlanes Always Lateの略だと比喩しています。
 
さて、工場見学を終えて空港へ戻る途中あいにく私どもが乗った車がパンクしてしまいました。時間が予定よりも大分ズレて遅くなっていたので、車は舗装をしてない片道一車線の狭い田舎の路をスピードを出していました。朝チャーターしたセスナがボホールの空港で私達を待っている時刻だったので、私は同乗していたVIPの一人に別のもう一台の車に乗り換えて貰って、先に行って貰いました。VIPと一緒に旅行する時は別の予備の車を必ずスタンドバイさせるのが私どものかの地での常識となっていました。
 
私の運転手はスペアのタイヤと交換して、前の車を追いかけていました。左側が海で崖で、右側は山が迫っている狭い道路でホーンを鳴らしながら突っ走っていた時です。道路の端で草を食べていた牛1頭が突然左から右へ横切ろうとしたのです。それは朝空港の滑走路で経験したのと同じような事態でした。車は100キロ以上のスピードが出ていましたので、右にも左にも避ける余地がなく、運転手もブレーキを踏みましたが全然間に合いませんでした。その牛がボンネットの上に飛び込んで来て、車のフロントガラスが割れ 一瞬前が見えなくなりました。それでも車は100メートル以上も煙を吐きながら走ってラジエーターからは水蒸気がもれてやっと停まりました。事故の現場の周囲には人影もなく人家も見付かりませんでした。幸いにも運転手と私はショックで首に痛みを感ずる程度だったので、運転手に対して車と衝突して道路脇に横たわる小牛の所有者を探して弁償の話をするように言い残して、田舎の村から空港方面に向かう野菜を満載したトラックに 途中の市場まで載せてもらい、そのあとは村の若者のバイクを乗り継いで、予定より30分ぐらい遅れて飛行場に着きましたが、その時はもう既に二人のVIPはチャーターしていたセスナ飛行機でセブ島へ向かった後でした。飛行場の公衆電話から(フィリッピンは電話事情がきわめて悪い)マニラの事務所に事故の報告をしたのですが、通信状態が悪くうまく話が出来ませんでした。後で判ったことですが、水牛が木村さんと衝突したらしい。電話はあったがくわしいことは分からないと関係者は大騒ぎをしていたようです。私は ボホールで一泊して翌日セブ行きのPALに乗り、セブのホテルから事務所に詳しく レポートしました。
 
私の乗った車が衝突したのは道の左側で草を食べていた小牛が車のホーンに驚いて道路を挟んだ右側にいた母親のところへ行こうとしたものと考えられます。小牛は衝突で前足を折った模様でした。
 
私は運転手に十分な補償をするように指示して現場を離れましたが、後日のレポートでは小牛の所有者から補償の請求はなかったとのこと。と言いますのは小牛を道端で監督もしないで放し飼いにしていたことの責任とそれに加えて、車(日本のT社製)の修理代が 小牛1頭よりもはるかに高くつくので、その賠償責任をとりたくない為とのこと。自動車部品はすべてセブ島から取り寄せねばならなくて高い。この事件は一頭力(馬力のしゃれ??)よりも、車の頭力(馬力)がはるかに大きくて強いということを証明しました。 これはダジャレです。
 
もし今後皆さんがフイリッピンのセブ島(マゼランが世界一周の途中でここに(マクタン島)立ち寄ったのですが地元の土人(名前がラプラプと言い、現在はあごが張ってとても強い歯をもっている魚にこの名前が残っています)との戦いで生命を落とした)に遊びに行かれる時は、時間が十分あればチョコレート・ヒルのあるボホール島にちょっと足を延ばして立ち寄るのも一興かと思います。 
             
以上